トランスジャパンアルプスレース、通称「TJAR」は富山県の日本海0mをスタートし、北アルプス、中央アルプス、南アルプスを越えて静岡県太平洋の大浜海岸0mをゴールとする全長415kmの日本で最も過酷と呼ばれるレースです。今回、2022年に完踏を果たした、中島裕訓(なかじま ひろのり)さんにTJARについてのあれこれを聴くことができました。今回は中編です。TJARを目指している人はもちろん、ランナーやトレイルランナー、ハイカーなどジャンルを超えた幅広い人に読んでほしい内容になりましたので、前編、後編も合わせてぜひご覧ください。
トランスジャパンアルプスレースTJAR2022完踏『中島裕訓』さんインタビュー<前編>〜10年越しの夢を叶える。TJAR出場のきっかけ〜
ーートランスジャパンとトレイルランニング大会は違うレースだと思われますか?その違いは何だと思いますか?
これは大違いですね。一般的に走るイメージが強いかもしれませんがトランスジャパンは走れないですよね。土井さんとか別格は置いてですが。だから山岳耐久レースというイメージです。あともう1個決定的な違いがトランスジャパンもルールが改正されて、2020からより衣食住全部を背負って自己完結で行けよっていう登山の要素、そういった意味合いが強くなったと思うんです。トレイルランニング大会で衣食住を全部背負って走ってますよっていう大会ってないですよね。特に食事、食べるものは自分でしなきゃいけないとか休憩する寝泊まりするテントも背負っていくっていうその辺がやっぱりトランスジャパンならではなのかなと思います。その辺の幅が広がって、飯島さん(TJAR実行委員長)いわく「それが面白いんだよ」って、「全部持ってっいっていろんな選択肢ができるからそれが魅力なんだよ」と言ってますね。僕もそう思います。
ーートランスジャパンに向けての日々のトレーニングを含めた時間の確保はどのようにされたのかを教えてください。
家族の理解が第一です。僕もまだ子供が小さいので家族が寝てる時間に走っていました。
ーー朝と夜だとどっちが多いんですか?
どっちかというと夜派です。けど寝ちゃうんですよね最近ね。でも早朝は走ると気持ちいいですよね。
ーー家族との時間のバランスはどうとられていますか?
難しいと思うんですけど、家族の理解は大前提として、トランスジャパンに出るんだっていうでかい目標を決めたら覚悟を決めて時間を作るのじゃなくて確保しておく必要がある。家族の理解のもと、この曜日のこの大会は出させてくれと、 月に1個はお願いという感じで、大会が結果的にトレーニングになるみたいなイメージで計画的に入れていきました。私の場合は、季節に分けて練習テーマを設けていました。冬は昔はずっとスノーボードをやっていたんですけど、それは置いといてとりあえず冬はフルマラソン、春ぐらいからウルトラマラソンで、夏から秋にかけてはトレイルラン大会という具合に、季節ごとに大会を目標にして、それに向けて練習を組んでいきました。あとはうまく年休をいただけるタイミングで2泊3日を確保してビバークの課題をやったり、家族の理解を得ながら計画的にやっていきました。
ーー計画立てていくっていうのはその都度月に1回この大会って決めるのか、それとも年間計画みたいなので立てられているんですか?
そこまでしっかりスケジューリングというわけじゃないんですが、走歴 7年ぐらいになってくると毎年出る大会が決まっていくんです。例えば先ほど言った富士山マラソンは11月で、しっかり組んでるわけじゃないけど自分の中で大体この大会には出ようという軸を決めています。「安近短」で移動に時間がかからない、山梨県、長野県、静岡県とか自分にとっての近場の大会に出ています。この辺だけでも結構いっぱいあるんですよ。 アルプスも近いので遠方でトランスジャパンを目指されている方からすると申し訳ないですけどね。登山口まで1時間という恵まれた環境ですから。
ーートレーニングに関してですが、普段はどのようにトレーニングされていますか?
山が好きなので、なるべくなら山に行きたいってことで、ちょっとの時間でも山に行けるようにしています。
ーー山梨県甲斐市にお住まいということで、身近な一番よく行く山はあるんですか?
僕の場合は周りにいっぱい山があるから色々行くんですが、トレラン大会もある「武田の杜」の山はよく行きます。
ーートレーニングで特に意識されてることは何かありますか?
そうですね。その時々に目指している大会に向けて必要なことは何だろうということを考えながらやっていました。例えば、フルマラソンの時期だったらフルマラソンの自己ベストを出すにはどういう練習が必要なのかなとかは結構考えて、本や雑誌を読んだり、YouTubeを観て学んだりしました。山関係では知らない場所があるのでそれを少しずつ潰していくっていうのはやっぱり楽しいです。そういった意味で、普段の山登りにもテーマを持たせていつもやっています。2、3年前だと『甲斐百山』っていう本をもとに全部登ったんです。ちょっとマニアックで山梨百名山には入らなかったんだけど選んでみましたよっていう本があるんです。ちゃんとした登山道もないような山にも入って、結構いいトレーニングになります。総合的に山と向き合うのに薮コギに近い山とかルートファインディングという要素があって楽しかったです。
ーーそれでは次に、食の面で普段の食事で何か意識されていたことはありますか?
普段の食事はありがたいことに特別支援学校教員ということで学校給食が食べられる環境なんです。なのでお昼ご飯は学校栄養士さんが作ってくださる栄養バランスのとれた食事を食べられるのでありがたいです。あとタンパク質は意識してとるようにしてます。好き嫌いも特にないので、何でも食べます。
ーー中島さんのパワーフードはあるんですか?
トランスジャパンの行動食で言うと、柿の種や羊羹など、コンビニでパッとすぐに買え、補給できるものは重要です。トランスジャパンのコースで言うと、北アルプスが終わって中央に入るセクションの時と中央アルプスから南アルプスに入るロードセクションは補給可能なので、セブンで買ってパッと自分の中で栄養やテンションが上がるものをとるようにしました。具体的には、柿の種やカルパス、ジャーキー、あと羊羹とかその辺はいつも買ってます。行動食って感じです。
ーー普段からその食べるものっていうのは確かにすごいキーポイントだなと思ってますが、最近大会っていうとジェル推しの気はするんですがどうですか、ジェルはレースの時に取られたりしますか?
ジェルは距離にもよるんですがフルマラソンくらいの時間で終わる3〜4時間ぐらいの距離だったらジェルだけでいけるので、2、3個ぐらい持っていきます。それを超えてくるレースに関してはあんまりジェルメインではいかないです。
ーー普段から噛んで食べるものみたいなのがメインなんですね。次にギア(装備品)についてお聞きします。ギアに関しては選ぶのにあたって大事にしてたこと、意識していたことはありますか?
ギアに関しては人によって様々です。悩ましいところで軽量化はもちろん意識するんですよ。ただ軽量化のみが先行すると、山の高度を上げていくトランスジャパンで長距離の移動っていう形になってくるとリスクが伴います。そこで相反していくんですよね。軽くなれば危険が増す可能性があるので悩ましいところなんです。重い軽いに関わらず、そのアイテムも十分使いきれて自分の中で習熟しているかどうかっていうのが大切です。使い込めているもの、自分の体の一部となっていることです。具体的に言うと、同じ絞りに絞った道具の中でもこの道具だったら2つ以上の使い方ができるような方法を自分の中で工夫します。よくあるパターンとしては、エマージェンシーシートを持ってます。でも使ったことありません。だとどうにもならないのでエマージェンシーシートを積極的に使うということ、ちょっと寒かったり、風が強かったら自分の中の行動着の一つとして考えてエマージェンシーシートをミドルレイヤーの中に入れて保温に積極的に使っていこうっていうような思考です。軽量化して自分はどういう風にしていきたいっていうビジョンがあって、それを実際試してみてそれが自分の中で十分使えるのかどうかっていうことまで考えて道具選びをするのが真髄なのかなと思います。例えば、シェルター内で一番無駄のない道具の出し方や設営もそうですけど、シェルターの中での生活の仕方とか自分の中で一番無駄のない動きをするのが大事で、余分に頭使ったり失敗すると時間のロスにもなるし、エネルギーのロスにもなる。頭使わずにパッとできるようにそこまで考えてのギア選びになるんです。ただ最初はトランスジャパンの報告書や雑誌を見て文献研究をしていました。ネットにもいろんな情報があって、これは何グラムでこういうのがいいよと知って、勉強してこれぞと思うのは買って試してみるということです。時間はかかりますが、そうやって選んでいきました。
ーー山梨でよく行くショップはどこですか?
3つあります。「SUNDAY」と「道がまっすぐ」はトレラン系に特化していて、あと「エルク」というショップです。この3つには本当にお世話になりました。
続きはこちら>>トランスジャパンアルプスレースTJAR2022完踏『中島裕訓』さんインタビュー<後編>〜本戦レースのエピソード〜(近日公開予定)
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